東京地方裁判所 平成8年(ワ)19108号 判決 1997年8月29日
原告
倉持健二
ほか一名
被告
青木悦子
主文
一 被告は原告倉持健二に対し八六六万六〇五八円及びこれに対する平成六年四月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は原告倉持泰子に対し七四八万六〇五九円及びこれに対する平成六年四月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
五 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は原告倉持健二に対し一七六七万八一九五円、原告倉持泰子に対し一五八〇万六三〇六円及び右各金員に対する平成六年四月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実
1 本件事故
(一) 日時 平成六年四月一八日午後〇時四五分ころ
(二) 場所 静岡県静岡市八幡四丁目一〇番一四号先三差路交差点内
(三) 加害車 被告運転の普通乗用自動車(静岡五八せ九七三三)
(四) 被害者 倉持陽輔(昭和六三年七月二八日生まれ)
(五) 態様 被告は加害車を運転し、交通整理の行われていない本件三差路交差点を静岡市八幡方面から同市森下方面に向かい時速約二〇キロメートルで直進進行するに当たり、同交差点内には幼稚園の出入口及び横断歩道があり、幼稚園児らが横断することが予想されるのであるから、適宜速度を調整し、前方左右を注視して横断歩行者の有無及びその安全を確認しながら進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、進路左側の幼稚園出入口に気をとられ、右方からの横断歩行者の有無及びその安全を確認しないまま、漫然と前記速度で進行した過失により、折から同交差点内を右方から左方へ横断してきた被害者を右前方約五・四メートルの地点にようやく発見し、急制動の措置を取る間もなく、加害車前部を被害者に衝突させて路上に転倒させた。
(六) 結果 被害者は脳挫傷の傷害を負い、その結果、平成六年四月二六日午後〇時五五分、静岡市小鹿一丁目一番一号静岡済生会総合病院で右傷害により死亡した。
2 責任
被告は加害車の運行供用者であり、自賠法三条により本件事故により生じた損害を賠償する義務がある。
3 てん補
原告らは本件事故により自賠責保険から二八七三万九三六五円の支払を受けた。
二 争点
1 過失相殺
(一) 被告
被害者は横断歩道直近において横断歩道外を横断したものであり、かつ、いわゆる飛び出しの事案である。したがって、被害者が五歳の幼児であったことを考慮しても被害者側には少なくとも三割の過失がある。
(二) 原告
被告は横断歩道の左側のみに気をとられて加害車を運転し、広い交差点を右から左に歩いて横断していた被害者に約五・四メートルの至近距離に接近するまで気付かず、急ブレーキをかけたときは衝突していたのであるから被告の過失は極めて重大であり、過失相殺の主張は認めることができない。
2 損害
原告らの主張は別紙損害計算書のとおり
第三当裁判所の認定
一 争点1
1 証拠(甲一、八、九ないし一七、一九ないし二一、二五ないし二七)によると次の事実が認められる。
(一) 本件事故現場は信号機により交通整理の行われていない三差路交差点であった。本件事故現場付近は、市街地で前方の見通しがよい道路で、歩車道の区別はなかった。路面はアスファルト舖装され、平坦で、本件事故当時乾燥していた。交通規制は制限速度が時速三〇キロメートルと定められており、また、駐車禁止となっていた。
(二) 被告は加害車を運転し、本件事故現場である三差路交差点を南八幡方面から森下方面に時速約二〇キロメートルで直進進行していた。
右交差点内には横断歩道があり、被告の進行方向の左側には聖母幼稚園の通用口があった。
被告は、右通用口から幼稚園児の出入りが多いことを知っていたので進路左側の方向に気を付けながら進行していた。
(三) 被害者は横断歩道手前の交差点内の道路を、被告の進行方向の右方から左方へ横断してきた。
被告はその被害者を右前方約五・四メートルの地点に発見したが、急制動の措置を取る間もなく、加害車を被害者に衝突させた。
2 右事実によると、被告は進路左側には注意をして進行していたものの、進路右側には全く注意を払わずに進行したことが認められ、進路前方の見通しがよかったことを考慮すると、被告が右側に対する注意を払っていれば本件事故を回避できた可能性があると考えられ、被害者の年齢に加え、本件事故現場が市街地であることを勘案すると、被害者側の過失割合を一割とするのが相当である。
二 争点2
1 亡陽輔
(一) 治療費等
証拠(甲三一、三二、乙一、二、原告倉持健二、弁論の全趣旨)によると、治療費一七万〇二四〇円、文書料等一万三一一〇円、その他六〇円と認められる。
(二) 入院付添費
証拠(甲三二、五五、乙一、原告倉持健二)によると、被害者は平成六年四月一八日から同月二六日まで静岡済生会総合病院の集中治療室に入院していたこと、その間、原告らが控室に待機していたことが認められ、被害者の年齢、傷害の程度を勘案すると、これを付添費として認めるのが相当であり、一日当たり六〇〇〇円としてこれを算定すると五万四〇〇〇円となる。
(三) 入院雑費
右のとおり被害者は九日間入院し、その間一日当たり一三〇〇円の入院雑費を認めるのが相当であるから、その額は一万一七〇〇円となる。
(四) 交通費
証拠(甲三三ないし五四、原告倉持健二)によると、原告らの通院のための交通費は一万九四四〇円であり、被害者の年齢、傷害の程度を勘案すると、これを損害と認めるのが相当である。
(五) 逸失利益
平成七年賃金センサス第一巻第一表、産業計、企業規模計、学歴計、男子労働者、全年齢平均の年収額五五九万九八〇〇円を基礎収入とし、生活費五〇パーセントを控除し、一八歳から六七歳まで就労可能として、その間の中間利息を控除して逸失利益の事故時の現価を算出すると、二六九七万七八七六円となる。
なお、被告は本件事故が平成六年であり、逸失利益の算定に当たっては同年の賃金センサスによるべきと主張するが、被害者は五歳であり、就労可能年齢まで一三年間あること、現実の就労可能時には年収額は更に上昇していると推測されることを勘案すると、口頭弁論終結時において利用可能な最新の資料により算定することも許容されると考える。
(六) 慰謝料
本件事故の態様、結果、被害者の年齢、その他本件に顕れた諸事情を考慮すると亡陽輔の慰謝料としては一五〇〇万円が相当である。
(七) 小計
以上の合計は四二二四万六四二六円となり、これに一割の過失相殺をすると三八〇二万一七八三円となる。
損害のてん補は証拠(乙一、二、原告倉持健二)によると一七万〇三〇〇円であり、これを控除すると三七八五万一四八三円となる。
(八) 相続
本件記録中の東京都足立区長作成の戸籍謄本(筆頭者倉持健二)によると亡陽輔の相続人は、父である原告倉持健二及び母である原告倉持泰子であり、原告らはそれぞれ亡陽輔の損害の二分の一である一八九二万五七四一円(一円未満切捨て)を相続したと認められる。
2 原告倉持健二
(一) 葬儀費用
証拠(甲五六ないし六一、原告倉持健二)によると、葬儀費用として少なくとも一八七万一八〇〇円が支出されていることが認められるが、本件事故と因果関係のある葬儀費用としては一二〇万円が相当である。
(二) 慰謝料
前記認定のとおり原告倉持健二が亡陽輔の父であることが認められるところ、本件事故の態様、結果、被害者の年齢、その他本件に顕れた諸事情を考慮すると同原告の慰謝料としては二五〇万円が相当である。
(三) 小計
以上の合計は三七〇万円となり、被害者側の過失として一割の過失相殺をすると三三三万円となる。
(四) 相続分
前記認定のとおり一八九二万五七四一円を相続した。
(五) てん補
原告らが自賠責保険から二八七三万九三六五円の支払を受けたことは争いがなく、弁論の全趣旨によると原告倉持健二は一四三六万九六八三円を受領したことが認められる。
(六) 残額
小計及び相続分の合計からてん補額を控除すると、七八八万六〇五八円となる。
(七) 弁護士費用
原告倉持健二が本件訴訟の提起、遂行を原告ら代理人に委任したことは、当裁判所に顕著であるところ、本件事案の内容、審理経過及び認容額等の諸事情に鑑み、同原告の本件訴訟遂行に要した弁護士費用は、同原告に七八万円を認めるのが相当である。
(八) 合計
以上の合計は八六六万六〇五八円となる。
3 原告倉持泰子
(一) 慰謝料
前記認定のとおり原告倉持泰子が亡陽輔の母であることが認められるところ、本件事故の態様、結果、被害者の年齢、その他本件に顕れた諸事情を考慮すると同原告の慰謝料としては二五〇万円が相当である。
(二) 小計
以上の合計は二五〇万円となり、被害者側の過失として一割の過失相殺をすると二二五万円となる。
(三) 相続分
前記認定のとおり一八九二万五七四一円を相続した。
(四)てん補
原告らが自賠責保険から二八七三万九三六五円の支払を受けたことは争いがなく、弁論の全趣旨によると原告倉持泰子は一四三六万九六八二円を受領したことが認められる。
(五) 残額
小計及び相続分の合計からてん補額を控除すると、六八〇万六〇五九円となる。
(六) 弁護士費用
原告倉持泰子が本件訴訟の提起、遂行を原告ら代理人に委任したことは、当裁判所に顕著であるところ、本件事案の内容、審理経過及び認容額等の諸事情に鑑み、同原告の本件訴訟遂行に要した弁護士費用は、同原告に六八万円を認めるのが相当である。
(七) 合計
以上の合計は七四八万六〇五九円となる。
三 まとめ
1 原告倉持健二の請求は、被告に対し八六六万六〇五八円及びこれに対する本件事故日である平成六年四月一八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却する。
2 原告倉持泰子の請求は、被告に対し七四八万六〇五九円及びこれに対する本件事故日である平成六年四月一八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却する。
(裁判官 竹内純一)
損害計算書